
樺太は、段々と人々の記憶から薄れつつある。
北方領土の北にある南樺太は、北海道の43パーセント、関東1都6県と山梨県を合せた広さに、戦前、40万人の人々が生活していた。明治38年、日露戦争後、北緯50度以南が日本に復帰して、以来40年間、ここを墳墓の地として、極寒不毛の地を開拓し、林業、製紙業、炭鉱などの産業を起こし、又、にしん、鮭、鱈漁を中心とする漁業基地としても発展してきたのだ。ところが、昭和20年8月9日、ソ連軍は、突如、日ソ中立条約を破棄して南樺太に侵入、爾来、不法占拠し、実効支配を続けてきたのだ。
その後、昭和26年のサンフランシスコ平和条約の交渉では、ソ連(ロシア)は、未だに、これに調印していない。従って、現在も、国際法上は、樺太の所属は、どこの国にも決まっていないのだ。
今回、麻生総理は、戦後初めてカラフトの地を訪れた。日ソ首脳会談と日本向けの液化天然ガスの生産開始に立ち会うためだが、実は、ロシア側の申し出で実現したものだ。
彼の地が、未だ、日本の潜在主権の地との認識があったのだろうか。
麻生総理は、経済交流に力点を置く一方、北方四島の領土問題でも、何らかの足がかりを付けたい意向と聞くが、それであれば、余計に、樺太問題を忘れないで欲しい。最近のロシアは、強いロシアを意識しており、因みに、北方四島に医薬品などを届けようとした日本の人道支援訪問団が、突如、出入国カードの提出を求められた。日本側は、提出すれば、ロシアの実行支配を認めることになると、拒否した事件がまで起きている。領土問題は、確かに懸案で、両者に譲歩無くして妥結の途はないが、ロシア外交はしたたかだ。日本外務省の、長く粘り強い秘密交渉が前提にあった結果と聞くが、樺太(サハリン)の現状を容認し、簡単に、ロシア領と決めるには、早すぎる。
私は、毎年、樺連(全国樺太連盟)の会合に出席し、当時のソ連の不法行為で財産や生命を失った人々の血の叫びを聞き続けてきた。今更、知らん振りすることは出来ない。
5月に、プーチン首相の来日が実現するが、友好親善や資源外交、北方四島返還問題がどれだけ大事か理解しないではない。が、樺太問題を、国民が知らないまま、うやむやに扱い、関係者の権利を、決して放棄してはならない。領土問題を、今世代で解決し、ロシアと真の善隣友好関係を構築するには、避けて通れぬハードルだ。
いよいよ、司馬遼太郎の「坂の上の雲」が、NHKで、3年に亘って放映される。筋の通らぬ政治決着は、先人が許さないだろう。麻生総理の、英断を求めたい。